通訳者は存在感を消してこそプロ…
この夏、友人から借りた本に上記のタイトルにある「通訳者は〜」と書かれていてずっと頭に残っていたのですが、先日参加した弁護士会の通訳人研修会の資料としていただいた通訳ガイドラインにも通ずるところがありました。でも、存在感を消すってなかなか難しいんです。
黒田龍之介さん著「その他の外国語エトセトラ」の後半部分に、黒田さんがシンポジウムの通訳をされていた時に議長から「黒田さん、あなたはどうお考えですか?」と訊かれ、自分の至らなさを思い知った…という内容が書かれています。
同書で黒田さんは、通訳者はコンピュータのように働き発言者に通訳者があたかも存在しないかのように感じさせることが理想、とされています。そして黒田さんはご自身のことを、謙虚さに欠け自分が前面に出てしまっていることが分かってしまった、と言われているのです。
この「あたかも存在しないかのように感じさせる」ことは、とても難しいです。なぜかと言えば、私は事情聴取や接見など自分の素性を明かしてはならない通訳現場で、ベトナム人の方に(私もベトナム人だと思い込まれ)日本語学習歴、出身地、日本での在住歴などを訊かれてしまうからです。
これは、日本人(帰化者を除く)でベトナム語通訳を仕事にしている人の絶対数が少ないため、物珍しさがあったり、ベトナム語通訳なら当然ベトナム人だろうという固定概念からきているのでしょう。好奇心旺盛で思ったことを直ぐに口にするベトナム人の国民性も影響もしているかもしれませんが。
また、私が日本人であると知られている通訳現場へ行くと必ずと言っていいほどベトナム語の学習歴やベトナム語を選んだ理由を訊かれます。これは、仕事の合間に雑談の中で訊かれるの場合がほとんどなので、まぁいいかなぁと考えています。
問題なのが、上述した事情聴取や接見時です。緊迫した状況にあるはずの通訳対象者が、担当職員や弁護士の方々が書類に目を通したりメモを取っている、ちょっとした合間に私に個人的な質問をしてくる時はとても困ります。
私は通訳者であり、ベトナム人の通訳対象者と直接話をしてはいけません。ですから、狭い空間に沈黙が広がっている時、私はなるべく話しかけられないように視線を下に落とし待機します。それでも話しかけられてしまうことが多々あり、例えば、私のベトナム語のアクセントから「ホーチミン出身ですか?」と訊かれると、担当職員や弁護士の方に「『ホーチミン市出身ですか』(と訊かれました)」と通訳しなければなりません。。。
あたかも存在しないかのように…存在感を消すってなかなか難しいです。
写真は当番弁護士通訳ガイドラインの2正確な通訳④
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