フリーランスと直(闇?)営業
今年に入って芸能界ではタレントが事務所を介さないで仕事を請け負ったことが「直営業」、「闇営業」としてマスコミに大きく取り上げられました(ここでは反社会的勢力の問題と切り離しています)。この直営業、フリーランス通訳でも存在します。。フリーランスの場合は個人事業主として直接お客様からお仕事をいただくこともありますが、エージェントを介してお仕事を振っていただくことが多いです。エージェントに登録する際または実際に稼働する際に業務委託契約書を締結します。
話題に挙がった芸能事務所は元々タレントと事務所の間で契約書が締結されていなかったという報道もありましたから、その点は少し状況が違うのですが。
次のような場合、皆さんならどう感じられますか?通訳者の派遣を受ける場合や通訳者を社員として採用する場合、業務委託契約を結ぼうとする時にどんな点に注意が必要でしょうか?
【例1】
通訳者が必要になりあるエージェントを通して通訳者を派遣してもらいました。とても優秀で気が利く通訳者だと感じました。会社の業務上、今後は社内通訳翻訳者の採用を考えていたので連絡先を訊くと通訳者から名刺をもらうことができました。後日面接を実施し、この通訳者を正社員として採用することになりました。
【例2】
通訳者が必要になりあるエージェントを通して通訳者を派遣してもらいました。とても優秀で気が利く通訳者だと感じました。日給で幾らもらっているか訊くと、会社からエージェントに支払っている額よりずっと少額だということが分かりました。今の日給に+αで支払えば通訳者の手取りは増えるし会社としてもエージェントを通すより経費削減になるので直接契約を打診すると通訳者は快諾し、次回以降は直接契約で通訳を依頼することになりました。
例1も例2も一見するとクライアントと通訳者のwin-winな関係で良いように感じるかもしれません。ですが、実際のところほとんどのエージェントは登録通訳者に対してクライアントと直接連絡(連絡先交換や直営業)を禁じています。これはベトナムでも同じです。日本では登録通訳者の氏名と担当言語、取次担当者の連絡先を記載した登録通訳者用の名刺を作成するエージェントもあります。
案件によってはメールや電話でのやりとりが必要になりエージェントから直接やり取りをするよう指示が出る場合もありますが、これは通訳手配担当者(総務など)と通訳使用者(営業など)が完全に分離した大手企業のような場合です。
エージェントを通して知り合った通訳者を直接採用したり仕事を依頼しようとされている方に今一度よく考えていただきたいのが「ほとんどのエージェントで直営業を禁止している」ということです。その規約を守らない通訳者は本当に信用が置ける人でしょうか?守秘義務を違反し競合他社に情報を提供してしまう可能性はないでしょうか?正社員で採用しても会社で禁止している副業で通訳をしたりしませんか?せっかく採用して教育したのに、あっという間に副業で知り合った企業に引き抜かれたりしないでしょうか?
私は今までに例1や例2のようなケースを何度か見てきました。偏見だと思っていただきたくないのですが…実体験からこのケースはベトナム人の通訳者に多い印象です。これは現代ベトナムの国民性が日本に比べてビジネスライクでドライであること(義理や情より条件が良い方へ歩みを進めることが多い)、ベトナム人通訳者の絶対数が多いためにブラックリストに載りにくいなど…様々な要素からなっていると私は考えています。
反対に日本人は良く言えばルールを遵守する、悪く言えば杓子定規、堅物、融通が利かない?ということに加えて、通訳者の絶対数が少ないために下手なことをすれば悪い噂が広がるリスクも高いので、こうした直営業をする人は少ないのかもしれません。
私自身も個人の名刺は初めから直接ご依頼いただいたお仕事の時やプライベートでのみお渡ししています。直連絡を禁じられている場面で連絡先を訊かれた場合には理由をご説明させていただいたうえでお断りしています。エージェントを通してお仕事を請け負うことはフリーランス通訳者にとって保険でもあると思います。業務中に何か別のお断りしにくいご依頼をいただいた時にはエージェントに報連相することでトラブルを回避することもできます。
写真はエージェントとの契約書によく書かれている直営業を禁ずる文言3サンプル。3つとも表現の違いはあれども禁止している行為は同じ「直営業」です。フリーランスの仕事は信用がとっても大切です!
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